ハンカチの失恋
○黒い画面
風が駆け抜ける
「でさぁー・・せんせーってばまるでねぇ・・・」
○青い空、遠くに校舎を見て足下は芝生
○一人の少女が芝生に座り髪を押さえながら遠くを見つめている
○横には寝そべってそらを見ながらしゃべる少女
風が気持ちいい・・・
「だってさぁ、ひどいよねちゃんと勉強してるってのに・・・聞いてるぅ?」
「聞いてるわ」
「でね、だから言ってやったの、私・・・私はね、里美と同じ学校へ行くんですって」
「・・・・」
「無理・・かな?」
「なら頑張って勉強しなくっちゃね、もうすぐなんだし」
ざわざわと音を立てて風がレンゲの花の芝生を走る
風の形がはっきりと見えるくらいに強く草が凪ぐ
横では由宇が寝そべってぼんやりと空を見上げている
その瞳は遠くを見つめているからか何か物憂げな不思議なものを感じさせていた
不意に目が合う
私は目をそらすとごろんと横になった
○芝生に横になって空を見上げる少女二人
「来年の今頃、何してるだろうね」
「どうかしらね」
「海行って山行って・・・あぁ早く行きたいなぁ」
「そうね・・・」
「そしたらあの遊園地へ行こうね、ほら初めて出掛けた」
「ええ・・・そうね・・・」
「もうあれから一年になるのねぇ」
○青い空
一年・・・か
空はどこまでも蒼く、風が止めばじりじりと暑い日差しが私に注がれる
長いようで、あっという間の
ずーっと続くと思っていた毎日が積み重なった一年
○回想:夕日の噴水前
○煽りで入ってくる里美
引っ越してきたその日、私は散歩をしながら近所を徘徊していた
ぼんやりと明日のことを考えながら、公園の噴水に腰を下ろす
初夏というよりは梅雨の合間の事だった
暫くして周りを歩く人がこちらを遠巻きに見ながら迂回しているのに気がつく
何かおかしな所があるかしら?と身を確かめ、そして辺りを見回した
○泣く由宇
隣の女の人が泣いていた
彼女は顔をぐしゃぐしゃにして嗚咽をこらえて泣いていた
席を立って逃げるのも気が引けた
ほんの、引っ越し直後のわびしさがさせた気紛れだった
・・・と今は思う
○ハンカチを差し出す里美
「はい」
しばしの沈黙
○泣き顔の由宇
「ふぐぅ・・・あ・・ありがと」
彼女はそのハンカチを受け取るとくしゃくしゃの顔で私を見る
あぁ、とんでもないところに居合わせちゃったな・・・
そう思っっていた
○座る由宇、立つ里美
彼女はぱたぱたと水道場にいくと、ハンカチを濡らし来ては目を押さえていた
そうしながら何度も何度も、ありがとね、ありがとねとくり返していた
「じゃぁ、そのハンカチはあげますから」
私はそそくさとそこを離れようと立ち上がった
彼女は相変わらずそこで目を押さえていた
○教室
次の日、私が転校先のクラスにいくと真っ先に話しかけてきた女の子がいた
「同じクラスだったんだ、由宇、御沢由宇って云うの、よろしくね」
「あの・・・誰かと勘違いしてるんじゃ・・・」
「はい、ちゃんと洗って返したからね」
○渡されるハンカチ
彼女は昨日会った彼女とは違い、とても明るい女の子だった
○青い空
それから彼女とは何をするのも一緒だった
友達は何人かできたけど、彼女ほどにいつも一緒という訳ではなかった
すぐやってきた夏休みに一緒に遊園地に遊びに行ったこと、
宿題やったり、夜までお話ししたりで楽しかった
美人でみんなに人気があって、それでいてどこか抜けていて、憎めない
私がなりたかった女の子、由宇はそんな子だった
○空が光で白くなっていく
○かざす右手
相変わらずじりじりと照らす
○見上げる空左側視界に入る由宇
いつからか由宇は起きあがり私をのぞき込んでいた
○かざした手をなめてのぞき込む由宇
「はいっ」
○被さるピンぼけしたピンクのチェック模様
「眩しかったんでしょ?」
「ええ・・・」
「えへへ」
「・・・・私・・・引っ越すのよ、また」
気持ちのいい風が吹きすうっと涼しくなる
「由宇と同じ学校には・・・行けないわ」
「・・どうして・・・」
「親の都合よ、そうやって何度も転校して・・」
「そっちじゃない、どうして今まで教えてくんなかったのよっ」
どうして・・・どうしてだろう
○ピンぼけチェックに由宇のシルエット
「それは・・・んぐっ」
唇に柔らかい感触
あ、いい匂い
ふんわりといい匂いがする
ぽたり、と何かがハンカチに滴を落とした
○泣き顔を伏せて走る由宇、向こうに起きあがる里美、手にはチェックのハンカチ
そのまま・・・・夏休みだけがやって来た
その後一度だけ、由宇にあった
○噴水公園:月明かりに照らされる由宇
彼女は月明かりに照らされて消えそうに思えた
そこには去年の、あの由宇がいた
彼女は私を見ると逃げるように走り去っていった・・・
○チェックのハンカチを握る手
○里美、手紙をもって机に肘かけている
拝啓、里美様
いかがお過ごしでしょうか・・・
○背景の手紙にフェードイン
あれから私はあなたと目指した高校へと入学し、三年間をすごしました。
あなたと一緒に高校生活を送れなかったのはとても残念でしたが、私にとって有意義な三年間でした。
そして今日、卒業式を迎えました。
あの日、あなたにお別れの挨拶もせずに見送ったことを今でも思い出します。
あの日からあなた宛てに何通もの手紙を綴りましたが、出す勇気がありませんでした。
もし私をゆるして下さるなら、あなたに会いに行きたいです
そしてあなたに謝ろうと思います。
私の方から逃げておいて虫のいい話ですね、
会いたくない、と思われても仕方ありませんね。
返事がなければあきらめます
これからもお体にお気をつけて下さい。
あなたの友人 御沢由宇
○チェックのハンカチを握る手にフェードイン、おちる涙
○ハンカチにはyouと書かれている
○立ち上がる里美、ゴミ箱の前に立つ
○超煽りでハンカチなめて里美
○捨てられるハンカチ
「・・・バカだなぁ・・・私って」
終わり