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実録 世界の謎を追え
 

 世界のことを、第2世界では風という。
これを追うものを、風を追う者と言う。

 この物語は、第7世界で、今起ころうとしている物語である。
この話は、ガンパレード・マーチというゲームを“ゲーム自体”を舞台にした、ひとつの知的ゲームの進行過程を描いたものである。

 登場人物は、速水でもない、舞でもない、ただのプレイヤー、ただの人間である。
敵は、世界最高のゲームマスターと呼称される、ただの人間である。
 

はじめに
 この文章には、1の序を除いて、透明文字を使って各章におけるミステリの謎解きを書いている。必要であれば、マウスでドラッグすれば読める仕組みである。
 まずは、透明文字でない文章を、最初から最後(第5のゲーム)までを全部読んでいただきたい。その後で、もう一度同じ文章を読みながら透明文字とあわせて読んでいけば、少しだけあの時の気分が、伝わると、いいなぁ。

 私は何分、ゲーム作るのはプロだが、文章は素人である。下手な文はお許し願いたい。

それでは、はじめよう。
 これは、今起こっている。そして起こっていた物語である。
 
 

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 1.序
 天才という人間を、あなたは見たことはあるだろうか。
アルファ・システムは、それを見たことがある。

 起こり得る全てを予測しているとしか見えない男。あるいは、そうなるようにしかならないように仕掛けていく男。
 我々は最初、ずっと彼が、運がいいのだと思っていた。

運など、どうでもよかったのだと思うようになったのは、つい最近のことである。

 私は最初に、とても残念な話をしなければならない。
このゲームは、彼の勝ちだ。
 たとえどうやろうと、これだけは絶対に動かない。たとえ彼を打ち破っても、結局それは彼の勝ちなのだ。

 最初からすでに勝負はついていた。おそらくはガンパレの企画が通った、その瞬間から。
 
 

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 第1のゲーム

 ゲーム制作というものは、集団作業である。
 ガンパレード・マーチクラスになると、50人近くが3年近くかけて、せっせと作業をおこなうことになる。
 企画書や設計概念書、基礎設計書、2次設計書、仕様書、作業指示書の作成だけで、通常、10人近くの人間が参加する。どんなものが受けて、どんな内容なら喜ばれるか、いくつものプランを比較検討しながら、統計と言う数学的な論拠を元に

 ゲーム好きな何人かが集まって好きなゲームを作っていた時代とは、違う。

少年マンガ誌と同じで、そこは、商品企画と製品開発からなる効率重視の仕事場であり、夢も希望もまったくない酷薄な世界である。一日一本を超えるペースで消費される生鮮消費財を量産するシステムと言っていい。
 

 だが、当時のアルファ・システムは違った。
1995年6月。アルファ・システムは一人の天才を得て、新型のゲーム制作を開始した。
 当時としては画期的なシステムの数々を導入し、単なる時代遅れの職人達に、まだ見たことのない技術の数々と、着眼点を教え、未来というものを勝ち取るために、明確な技術優位を成立させるためにフラグシップ・ゲームを作らせたのである。

 その男は企画部企画課の社員で、名前を芝村と言った。ずっと後になって、私は彼が非常に優秀な自己組織型AIシステムの研究者だったと、風の噂できいた。何か問題を起こして、この会社に流れてきたとも。

 ずっと前から会社に居たが、誰も彼が天才であるとは、思わなかった。
 いくつかのゲーム制作を無難にこなすと、とりあえず一つのプロジェクトをまかされることになった。 そして、いつのまにか頭角をあわらわした。いつのまにか会社の全域を知り、必要だと思われるその時その場所に、かならず出現して問題を解決するようになった。誰も見たことがないものを、まるで見たかのように語り、その通りに形にしていく才能を持った人間だった。

 魔術師とも詐欺師とも言われる男。それが、アルファの半分のスタッフを、最終的にはほぼ全員を巻き込んでゲーム制作を指揮することになった。
 
 

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 第1のゲーム解
 入社時点で、彼は、自分の経歴を、徹底的に偽った。
 SCEを含むいくつもの会社、私やたくさんの野次馬的社員が、彼の本名、経歴、年齢を知りたがったが、どう調べても、最終的に残るのは謎だけだった。
 絶対に偽れないお役所関係の書類を管理する社長と経理は、この件に関して沈黙を守り、情報をださせなかった

 それどころか冗談ぬきで、彼は家に帰るルートを毎日変え、不定期に引越しをしていたのである。
 
 

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 第2のゲーム

私が入社したとき、そのヘンに偉そうな社員は、自分を第2世界の出身だと言った。

私が仕事で出張したとき、そのヘンに偉そうな社員が、実際に偉いことを知った。
 

 アメリカ社員旅行のとき、そのヘンに偉そうな社員が、酔って歌を歌った時がある。耳の聞こえない人間にも、言葉が分からない人間にも等しく意味が分かる歌。
 本物に音は必要ないと、その時知った。
 

それがあまりに不思議すぎて、私はそれを書き留める。
 いつかゲームにしようと、そう思った。
 
 

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 第2のゲーム解法

 私や社員は、彼の物語を聞くのが好きだった。
時折きかされる。ほんとのような、荒唐無稽な話。

 闇を払う銀の剣。海を飛ぶ船。我々と良く似た、別人の冒険談。

 彼は、世界は七つあるという。この世界は七番目の世界で、彼は、二番目の世界に生まれ、六番目の世界で過ちを犯し、七番目の世界に追放されて来たと。

 尾上というデザイナーの、事実上ただ一人の血縁である母が危篤になって、彼が会社に来れなくなったとき、彼は母の病室で、芝村の語る物語の絵を描いた。それは5番目の世界の話。

 それがガンパレード・マーチのはじまりである。
その絵を見た社長が、SCEが、それを商品化するために動いたのである。
 

 社員旅行のとき、芝村は、誰もが涙を浮かべる歌を歌った事がある、自分は何かをしなければと全員が思った歌だ。 シナリオライターだった私は、彼に話し掛けた。

 彼は言う、歌は、魔法だと。
 世界でもっとも力が弱く、故に最強であるオーマの御技は、歌うことからはじまると。

 彼の故郷、二番目の世界は魔法の世界だと言う、そこは歌が全てであり、全てが歌であると言う。
 やかましくはないかと私が真顔で聞いたとき、彼は笑ってこう言った。

 力は、それが本当に必要になった、たった一度だけ使えばいいのだ。
それで事たりる。生きると言うことは、そのための準備をすることなのだと。
 
 

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 第3のゲーム

 ガンパレード・マーチのゲームスタートは、なぜか1999年の3月4日である。

 元々は、99年の初頭に出す予定だったから何の問題もなかったが、発売が、なぜか1年半も延びた。理由は簡単である。
 芝村がミスをしたからである。 AIとまるで相性の悪いシナリオを導入させ、あげくにそれを一人でボツにして、貴重な時間の多くを浪費したからだ。
 芝村はこれの責任を取って退社、新たに私が、プロジェクトの指揮を執ることになった。

99年春。引継ぎのとき、彼の元部下だった私は、茶飲み話で発売時期が2000年の秋になりそうだから、これは、2000年にしたほうがいいですねと言った。

 その質問に対する答えは、それだけは、やめてくれ。であった。

 私は、その要請を受け入れた。女好きだとか、酒が好きだとか、人をからかって遊ぶ悪い癖があるとか、色々性格に問題はあると思ったが、実際、その手腕と業績は尊敬していたのである。
 私は彼の顔を見て、入社以来はじめて頼まれたような気がして、分かりました、これは99年で出しましょうと約束した。そして約束を守った。
 第3のゲーム解法

どうしても1999年の3月4日でなければならなかったのだ。
時差が569日あるのだから。
 
 

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 第4のゲーム
 ガンパレード・マーチというゲームが出てから1月を数えたあたりから、掲示板に変な書き込みが増え始めた。
 世界の謎を追うプレイヤーの書き込みである。それも執拗なまでに、なぜ世界はそこにあるのかという、普通のゲームでは絶対に尋ねていけない質問のたぐいであった。
 ドラクエでなんで魔法があるんですかと聞いたら、ただの嫌がらせである。

 掲示板管理スタッフは、これを荒らしかと思ったが、削除はせずに真面目に応対することとした。
 すでに辞めた社員であるところの芝村という人間が残した資料に、質問に対応する答えがあったからである。見事な索引と想定問答つきであった。

 私こと矢上総一郎(ホサれ中)は、これらを使って丹念に答えた。
暇だったからしょうがないという話もあるが、仕事はまめに熱心にが私の取り柄である。

 そのうち、その系の質問が増え始めた。爆発的に増殖していると言ってよい。
「うわぁ。」
 正直に言えば、ある朝私は掲示板を見て椅子からひっくりかえった。なんだこの人達は。
というか、本格的な荒らしか?
 第4のゲーム解法

 今、思えば、この時点で気付くべきだった。
 
 

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 第5のゲーム
 世界の謎を追う人種というものは、その時点で一般人が引く要因である。
濃い人が多ければ多いほど、今をもっても唯一の宣伝手段であるガンパレHPでの評判が悪くなる、私は、それを恐れた。濃いこと自体が悪いわけではないが、人間、よほどのことがないかぎり、何色にか綺麗に染まろうとはしないものだ。

 ありていに言えば、どう考えても、一部の人間が暴走して、他の人が「いやーん」しているような気がしたのである。
 私は社の許可を取り、各種チャットに顔を出し、掲示板を見た。

結論:だいぶ嫌がられてるなぁ。
 ついていけないという人が多すぎた。そりゃそうだ。私だって大学は一回入り直してもう一回大学で勉強して、かれこれ7年大学にいた(しかも遊んでいたわけではない)が、芝村と話しをしていると頭が痛くなるときがあった。数学を勉強しようとすると不意に頭痛がするあの感じである。ゲーム好きな高校生が話せる話題ではない。

 その頃は「クラインの壷とか、PDPとか、ゲーデルとか」まあ、ゲームの掲示板としては信じられないような言葉が並んでいたのである。この頃の有名な謎ハンターは、snow-windや、綾繁であった。(敬称略)

 かくて荒らし対策として、我々は会議をもつことになった。どうしよう。なんとか悪いイメージをあたえずに、そういう質問をどうにかできないかな。これはSCEのスタッフも参加した、結構真面目な会議である。
 会議はとりあえず芝村が設定を作ったのが悪い、ゲームだからと言えば良いのにという、ひとしきりの罵倒大会の後、私の責任問題に移ったが、その後頭が冷えたと見え、会議が終る頃には一つの結論が出た。

結論2:世界の構造にまつわる奴は、情報を非公開にしましょう

 というか、しばらく答えるのはやめましょう。というわけである。かくて世界の謎には突然高い壁ができ、謎を追うプレイヤー達は、よりどころを失った。

 今思えば、それは完全に失策だった。最初なかったエンディングランクを、芝村が辞めた後でSCEと組んでつけちゃった以来の大失敗である。あの頃のユーザーに対しては、平身低頭しきりである。
 第5のゲーム解法

 ゲノムという言葉がある。それ自身は無害だが、一定の数が集まると、それが深遠な意味をもつ、小さな因子である。
 例えば人遺伝子をヒトゲノムと言う。一つの遺伝子はただの遺伝子(塩基配列)だが、複数集まると、人(人間)やその器官を構成する設計情報になる。

 芝村は、この時点で二つのゲノム、あるいは罠を仕掛けていた。

一つは、“チェーン・ゲノム”。一つの情報(謎)が明らかになると、次の謎が現われる。場合によっては二つも三つも謎が現われる。つまり、謎を追う人間は、加速度的、爆発的に情報のラビリンスに引きずり込まれ、それを求めるようになる。
 各情報のチェーン(鎖)は微妙な位置に設定されており、諦めるほどではないが、調べないと気が済まない程度に配置される。

 もう一つは、“ミラー・ゲノム”。これについては、後で記述する。
 

 彼は、無数のチェーン・ゲノムを仕掛けることで、世界の謎を追うユーザー達をそれと知らずに操作して。次々と彼のゲームに参加させていたのだ。
 
 

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 第6のゲーム
 ガンパレの売り上げが伸びたら、芝村が戻ってきた。
青いと言われる一部の社員や社外の人間が、躍起になって陳情をしていたのである。
 評価されてから彼の功績を認められるようになったからである。

 彼は1年以上の間、失踪していた。正確には無駄作業になったガンパレのシナリオ1・2・3の失敗責任を取って、半ば強引に退社後、姿を消していたのである。

「ちょっと第5世界まで行ってきた。娘が、心配だったのだ。」
 そう喋る彼の言葉を、我々は笑ったものである。

あいかわらずだよ、あの人は。我々はそう語り合った。
 第6のゲーム解法

 彼は、OVERS・System Ver1.00の設計図を私に示し、彼の娘の一人をモデリングしたAIを見せながら、言った。

ぎりぎり間に合った。
 
 

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 第7のゲーム

芝村は復帰着任後、突然世界の謎関係の情報規制撤廃を指示した。

 我々はSCEと話した結果としてこれを却下した。また、荒らしが増えても困るからである。
 我々の主張はこうである。公開設定が多すぎれば、ユーザーや腐…もとい同人系の身動きがとれなくなる。 矛盾をつっこまれてもいいじゃないか。どうしてそこまでして執拗に穴を塞ぎ、フォローする必要がある。想像する余地を残すべきだ。

 すると彼は、想像する余地はまったく必要ない。と言った。

その言い方があまりにも芝村的なので、私は熱くなった。ありていに言えば、激怒した。あまりにも見下した態度、傲岸不遜だったからだ。
「それは、ユーザー達は口を開けて立っていればいいと言うことか、ユーザーの自主性を失わせると言うことか。」
「ドカン。」

 それが芝村の回答であった。
 
 

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第7のゲーム:解法

 ここでドカンという言葉を説明しなければならない。
芝村の故郷の言葉で、この○○(自主規制)という意味らしい。
 アルファ・システムでは大概の場合、芝村が新入社員をしかるとき、つまり右も左も分からない奴が先走って芝村の地雷(罠)を踏んだ時に、この言葉を使う。

 なぜ、罠なのか。

 芝村は一々何を考えているかを人に告げることは決してない。
親友と呼ばれる人間にもそう。あれは本質的に不親切である。言わないと分からんのかと思っているようでもあるし、自分で考えろと思っているようでもあった。

 何考えてるか分からないのに、それの邪魔をすると怒られる。まさに罠である。
私も新人時代には、周囲からドカン野郎と言われるくらいに罠に掛かったことがある。
 

「それは、ユーザー達は口を開けて立っていればいいと言うことか、ユーザーの自主性を失わせると言うことか。」
「ドカン。」

つまり、
「それは、ユーザー達は口を開けて立っていればいいと言うことか、ユーザーの自主性を失わせると言うことか。」
「この○○(自主規制)」
である。

 我々は、この段階で、そこに罠があることを知ったのである。
 
 

 ドカンには意味がある。
過去の全てのデータが、芝村がドカンを言った後、何がしかの狙いがあることを示している。
 それだけは、新人の時から体に叩き込まれていた。もうパブロフの犬状態であるが、大変面白くないことに、実はそう仕込まれていること自体が罠である可能性もある。

例えば、ある社員がいいアイデアだと仕様を思い付いて、それを芝村に提出する。ドカン。
 そのアイデアはユーザーに親切にするためのシステムだったのだが、後でその不親切が、何十時間かプレイするとなくてはならないその意味が分かったり、ひどい奴は1年たって気付くときがある。あの男は、そんなトラップを年中トラップを際限なくばらまきつづける男と言ってよい。

 これを、“ミラー・ゲノム”あるいは論理トラップという。彼は、チェーン・ゲノムと同時にこれを仕掛けていた。

 このゲノムは全部の情報が一つのキーワードを鍵にして、一斉に意味を反転する、ハッカーやアジテーターが主として仕掛けるゲノムである。

あの男は約60万のチェーン・ゲノムと7つのミラー・ゲノムを仕掛け、その上で一般人が引っかかるダミートラップを2万4千個所で仕掛けたゲームシステムと世界設定が組み合わさった“システム”を組み上げていた。

 つまり、どこもかしこもトラップゾーンで、奴が手を叩いた瞬間にまったく別の何かに変わるような、まるで魔法のようなシステムを組み上げていたのだ。

 言い換えれば、社員にとっては大変気持ち悪いものが出来る。奴が魔法のワードを唱えたら、自分がこうだと思うその全てが、あっと言う間に塗り替えられるからだ。

 今回の場合、奴のトラップの中でも最大級の奴が仕掛けてあった。
奴が手を叩き、歌を歌うたびに、自分達が3年かけて、こうに違いないと思っていた、その作業が、次々と秩序を持って回れ右を開始する。
 それは、社員にとって、いつもながら大変気持ちの悪いものであった。
ここで社員の言葉を紹介する。

ガヴァナー:匿名希望
匿名希望:「やられた…またやられた…」

美術監督 尾上
尾上:「やると思った。」

メインプログラム:坂上
坂上:「あきらめてました。」

社長:社長
社長:「まあ、いいんじゃないの。芝村だし。」

SCE:永野
永野:「今から熊本にマジでぶっころしに行きますから捕まえといてください。」
 
 

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 第8のゲーム
 荒らしが荒らしでないことに気付かされた私こと矢上は、罪の償いをはじめることにした。
 いくらなんでもこれは私のせいじゃないだろうと思ったが、責任者は責任を取るのがアルファ・システムにおける責任者であって、それに例外はまったくない。雨が降ったのは責任者のせいであり、風がふいたら、それは責任者のせいなのだ。人より上の地位に立つ人間は、人より重い責任を一身に背負う。 腕に巻く深紅のスカーフにかけて。

 ということで、私はせっせとレスをつけることにした。

 増えた。質問が加速度的に増えて、倒れそうになった。(最初から倒れているという噂もある。)
 芝村が手を叩いたら、荒らしが荒らしでなくなった。なぜなら異常に盛り上がりはじめたのである。謎ハンターの皆さん。すみません、ほんとうにすみません。

 アクセスするユーザーの過半(49%+)が目をぐるぐるにして世界の謎を追い始めるのは、なにこの人達と思わなくもなかったが、そのうち、自分も飲み込まれた。
 熱いぞ、熱いぞ、うむぅ、なんだか燃えてきた。である。そのうちに睡眠時間が、減った。

 面白いように自己組織化して、まったく知らない間柄の人間達が協力プレイを開始するのは、見ていて感動するものがある。それぞれが足りないものを補い、一人が倒れれば、一人が代りに立つ。全員が全員勝手なことをやりながら、なにか一個所を見つめてる。

ああ、この光景なんだかどこかで見たことがある。 そうか、そうなのか。

 私は、何一つ自分は分かっちゃいなかったと、くやしくて5年ぶりに本気で泣いた。
 
 

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 第8のゲームの解法

 私は私の役目を果たすことにした。静かで無秩序な舞台で、情報規制を撤廃し、魔法の言葉を使うのだ。それは“ループしていない”

 ユーザー達が、動き出す。

 失われた時を取り戻すように、世界の謎を追うユーザー達の書き込みが一斉に増えていく中、プレイヤーの役割分担が起こり始めた。自己組織化。
 性分化ではないが、それぞれがシステムや社会、生物界の一員として、綺麗に組織化されていく現象である。 何かを成そうと今を超えるために、分化する生理機能。

最初からこうなるしかなかったかのような、天の配列。
 各キャラ好きが、キャラに捧げる愛の歌を歌い、世界の螺旋を解く理数系プレイヤーが時間と空間を越える歌を歌い、歴史の違いを見る文系プレイヤーが、世界にちりばめられたイレギュラーを排除する歌を歌い、太古の昔から幻想の御技に慣れ親しんだ魔術系プレイヤーが、天に浮かぶ暴虐を消す歌を歌い――
 そして主力が、迷いながらも、力強い世界の旋律を歌い始める。

なんという偉大なる魔法。これを予測して、これを狙って全てを仕掛けていたのか。
 

 自己組織化臨界点という言葉がある。一定の数のファクターが集まったとき、まさに魔法のようにシステム化する現象。芝村は、自己組織化するAIの研究者だった。
 全ての設定にゲノムを仕掛け、特定のワードに反応して、人の心に介入するシステムをあの男は構築していたのだ。 誰にも気付かれず。

化け物め。

 5000人を越えるプレイヤー達が、自分の好き勝手に歌いながら、それで合唱しているように変化する。大も小も、一点に指向を開始する。

 ガンパレード・マーチというゲームを作る直前、アルファ・システムが一致団結したことを思い出す。そして我々は、採算を度外視した、沢山の無駄があるシステムをつくった。
どんなことをしても、未来の為にそうしなければならないと、本気で思ったからだ。
 あの時点で、すでに奴のゲームは、はじまっていたのだ。

全てが、動き出す。
 もう誰にも、止められない。私と会社は終りを望むユーザーをとめられない。ユーザーの何人かが幻滅しても、それは確率論上の計算誤差の網にからめ取られる。
 

あの男は、勝ったのだ。
 

つづく
 
 

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 昔

私が入社したとき、そのヘンに偉そうな社員は、自分を第2世界の出身だと言った。

私が仕事で出張したとき、そのヘンに偉そうな社員が、実際に偉いことを知った。
 

 社員旅行のとき、そのヘンに偉そうな社員が、酔って歌を歌った時がある。耳の聞こえない人間にも、言葉が分からない人間にも等しく意味が分かる歌。
 本物に音は必要ないと、その時知った。
 

それがあまりに不思議すぎて、私はそれを書き留める。
 いつかゲームにしようと、そう思った。
 
 

あれは全部、罠だったのか。
 
 

我々は、完全に敗北した。
 

つづく

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